『機械からの声とネット社会』 インスクエア ビジネスニュース Vol.1390
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■━━━━━━[vol.1390]2017/09/26━■
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01 ┃本日のコラム －
┃『 機械からの声とネット社会 』
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┃ ／ 重村達郎（弁護士）
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振り込み詐欺による被害額は年間数十億円、
最近はどこの金融機関でもカードによる
一日あたりの引き出し限度額を５０万円
に制限したり、１０万円以上振り込む
場合には、身分証明書の提示か
取引履歴を要するなどの等の対策が
とられています。
それでも、郵貯の貯金はカードが
なくても通帳だけで、暗証番号さえ
わかれば引き出せますし、４９万円ずつ
数日間に分けて引き出させて振込み
させるなど、被害はなかなか減らないようです。
そこで、一定期間取引がない７０歳
以上の預金者がキャッシュカードで
振り込もうとしても、「この機械では
使えませんので窓口にいらしてください」
と音声が流れ、窓口に誘導して、
被害を減らす金融機関が増えてきました。
これまでも、依頼者からの入金の有無
を確認するために自動預払機で通帳に記帳
しようとすると、ご丁寧にも「現在の
ところ、記帳する取引はございません」
といった音声が流れて、周囲の手前、
やや気恥ずかしい思いをすることが
ありますが、機械からの音声で窓口に
並ばされるのも余り気分の良いもの
ではありませんね。
私が，最近、当番弁護士で出動して
被疑者段階から国選弁護人になった
振込詐欺のケースは以下のようなものでした。
茨城県の小都市で、オーバーステイ
のためひっそりと農作業などを手伝って
暮らしていた学歴もなく貧しい中国人
労働者が、ネットでの「大阪でいい
仕事がある」という誘いにつられて、
何の事情も知らないまま，夜行バスで
大阪まで来て、携帯電話からの指示のまま、
金融庁職員を名乗る還付金詐欺の
見張り役をさせられました。
この事件では、おかしいと思って
警察に届けた80歳代の女性が、おとりで
郵便局まで出向いて現金を引き出し、
手渡そうとしたところで、受取人役の
中国人男性とともに、詐欺未遂で
現行犯逮捕されました。
二人は大阪で初めて会い、足のつかない
プリペイド式の携帯電話からの指示通り
に現場に赴いただけで、互いに本名も
知らず、被害者と巧みに電話でやり
とりをした日本語の出来る者を指揮
した悪い奴は行方もわかりません。
私が弁護を担当した被疑者は、
日本語もほとんど出来ず、留置場での
接見も広東語の通訳を同行しての
ものでしたが、詐欺に至る事情を
ほとんど知らされていない末端の手下
ということで、処分保留で釈放扱いに
なりました。
が、すぐ、今度はこれまた知り合い
のネットを通じて，就職に有利なように
ということで偽造された在留カードを
日本円にして1万円ほどで購入し、所持
していたということで再逮捕されましたが、
これもお守り用に所持していただけで、
実際には提示等行使した形跡がないと
いうことで、処分保留で釈放になり、
結局、必至と思われたオーバーステイ
でも起訴されず、強制国外退去処分と
なって、一件落着となりました。
検察官が、犯罪の認識がないこと，
可罰的違法性がないことを理由に
弁護人に争われるのをうっとうしいと
思ったのか、こんな末端の者をわざわざ
通訳費用までかけて裁判するほどの
ものでもないと考えたのか、わかり
ませんが、三件とも不起訴という
珍しい結果に終わりました。
振り込み詐欺の実態はかくたるもので、
ネット社会では、犯罪集団内部にも
格差があり、本当に悪い奴は背後に
潜んでいます。機械からの音声で窓口
に誘導して振り込み詐欺を防止すると
いう最後の人間くさい対策は、
ネット社会における反面教師なのかも知れません。
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▼プロフィール：
・氏名：重村達郎（しげむらたつろう）
・ひまわり総合法律事務所 弁護士（大阪弁護士会）
t-shigemura@himawarilaw.com
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京都大学法学部･経済学部卒
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