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『法の制定・改正と職域拡大、既得権益の壁』 インスクエア ビジネスニュース Vol.1315

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■━━━━━━[vol.1315]2017/06/27━━■

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01 ┃本日のコラム -
  ┃『 法の制定・改正と職域拡大、既得権益の壁 』
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  ┃      / 重村達郎(弁護士)
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 共謀罪、加計学園問題をめぐる攻防に隠れてほとんど
報道、注目されませんでしたが、この通常国会で先端医療に
かかわる2つの法案が制定、改正されました。

 一つは臨床研究法案で、先端医科学分野ではクローン
技術規制法に続く2つめの法律です。
もう一つは臨床検査技師の配置をめぐる医療法の改正です。

 加計学園問題では、既得権益擁護の「岩盤規制」を崩し、
自由競争を促進するという大義名分のもと、国家戦略特区
の指定による特例措置という手法を用い、応募要項の条件
をこっそり書き加えて、事実上、首相と個人的に親しい
理事長が経営する大学にのみ獣医学部の新設に向けた
便宜が図られた疑いがもたれています。

 今回は余りに露骨で,内閣府主導のもときちんとした
説明もなされていないために、大学行政を管轄する文科省や
世論からの反発も大きいのですが、法の制定、改正が
産業間の利害調整や新しい時代の動きに対応すべくなされる
以上、特定の業界の職域拡大や利益誘導がなされることは
しばしばあります。

 今回の医療法の改正は、遺伝子検査をする病院等に
一定数の臨床検査技師の配置を事実上義務づけるもので、
当然、血液や遺伝子を検査する臨床検査技師の職域は
拡大されます。

 医療技術の進展は、各人の資質や病態に即したオーダー
メイド医療への志向を生み出し、遺伝子検査や遺伝子治療の
需要を伴います。これが保険制度とリンクすれば医療収入は
大幅に増大しますから、大票田の関係業界をバックとする
厚労族議員は法改正に向けがんばることになります。

 他方、医療業務を看護師に移すタスク・シフテイングは、
特定医療行為として研修の実施等厳しい条件付きで一部実現
しましたが、弁護士会と司法書士会と同様、医師会と
看護師会との縄張り争いで、両者の力関係が反映しています。

 臨床研究法案は、製薬企業などから資金提供を受けた
薬の臨床試験や未承認・適応外医薬品を使った臨床試験に
ついて、「特定臨床研究」として、新薬の製造・販売承認を
受けるための治験に準じた規制をするものです。

 デイオバンなどの不祥事を踏まえ、研究委託契約の締結や
資金提供の情報公開、厚労大臣の認定を受けた臨床研究
審査委員会の意見聴取,報告などを義務づけ、違反すると
懲役刑の罰則もあります。

 この法案についても、学問研究の自由,被験者の人権
との関連で、本来、もっと議論があってしかるべき
ところでしたが、「劇場政治」になじみにくい課題で
あることも影響してか、論議は低調でした。

 これらの法案を通して、総じて、かかる人員や煩雑な
事務処理体制を配置・構築できる大学病院や大病院に
有利な仕組みになっており、個々の医療機関や検査機関が
事業として算入するには既得権益が厚い壁になっています。

 これは、生殖補助医療のように、産科婦人科学会の
規制に従わないアウトサイダーや国外での研究・治療を
逆に生み出すことになるかも知れません。

 話は突然変わって、ロシア革命100年、2月革命で
生まれたケレンスキー臨時政府が崩壊し、ボルシェビキが
権力を奪取する課程を丁寧に追った労作、池田嘉郎著
『ロシア革命 破局の8ヶ月』(岩波新書)の結語、
「1917年のロシア革命が私たちに伝えるのは単純な
ことである。ひとは互いに譲り合いながら、あい異なる
利害を調整できる制度を粘り強く作っていくしかないのだ」
にもじって言えば、以下のようになるでしょうか。

 人類の英知として生み出された議会政治が独裁よりも
ましなものであるとすれば、法制定や改正を正当化するに
足る立法事実があるかどうか、そこで熟議を尽くして
利害調整が諮られ、「納得」のもとに少数が従う理が
あるかどうか、それが「街頭の政治」「劇場政治」を
乗り越え,対置されるべき道ではないか。
 
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▼プロフィール:
・氏名:重村達郎(しげむらたつろう)
・ひまわり総合法律事務所 弁護士(大阪弁護士会)
  t-shigemura@himawarilaw.com 
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京都大学法学部・経済学部卒
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